アヤメを描いたピッチャー

食器・キッチン品

もう20年以上も前の話だが、義母が家のどこからか、このピッチャーを出してきた。「あら、きれい」と私が言うと、「ほしい?」と義母が聞く。「きれい」と言った手前、ここは「ほしい」と応えるべきと思い、もらったものだ。元々はお祖母さんの家にあり、義母が子どもの頃から見知っていたという。私で3代目の代々伝わるピッチャー。

裏をひっくり返すと刻印があった。「オナン(Onnaing)」というのは、フランスの最北に位置し、ベルギーと国境を接するノール(Nord)県にある町。「Frie」は「Faïencerie」の略で「陶器製造」の意味。

調べてみると、オナン陶器製造は1821年に設立。19世紀末から活動が栄えて労働者は500人にのぼり、製造工場は6ヘクタールにまで広がったという。ところが、第一次世界大戦による被害を受け、窯などの設備が破壊されてしまった。1921年に再起を試みるも失敗に終わり、1938年に製造が停止。1947年に破産した。つまり、私のピッチャーはとても古いものだということ。

オナン陶器の特徴は、「バルボティーヌ(barbotine)」という手法で、粘土や水を混ぜてこねたパテを型にはめて柄の形をつくるというもの。表面がデコボコしているのはそのためだ。

さらに調べると、底の「478」という番号は柄の種類のことで、これは「あやめ(iris)」という題名のピッチャーになる。ヴィンテージ品のネット販売なんか見ていると、たま~にオナン陶器の「あやめ」が売りに出ていることがある。同型で作られたであろうものでも、色が微妙に異なる。私のは淡い藤色のあやめだが、もっと色濃かったり、赤紫だったり。内側が赤みのある桃色というのもおしゃれで、お祖母さんが使っていた当時は、赤ワインを入れてテーブルに出していたのではと思ってしまう。これからもずっと大切にしたい。