化学繊維が発明されたのは19世紀らしいが、アパレル素材として一般市場に多く出回りはじめたのはいつ頃なのだろうか。ナイロン、ポリエステル、アクリル、アセテート…。シワにならない素材もあり重宝されたりするが、身に着ける物なら私はやっぱり綿や麻、羊毛など天然繊維が好きだ。
子どもの頃、日本の母が「じんけん(人絹)」という言葉を使っていたのを思い出す。当時は「何のことだろう」と聞いていたのだが、これは「人造絹糸」のことで、レーヨン。フランス語では「Viscose(ヴィスコーズ)」か。
花びらが散ったような模様の黄色いロングドレスは、生地がとろんとして光沢があるが、見るからに化繊っぽい。木製の大きなトランクの中に、そのほかの衣類と一緒に入っていた。既製品なのか、誰かに作ってもらった物なのか…、左胸についたポケットに、こげ茶色の糸で義母の名前のイニシャルが手縫いで刺繡されていた。小さ目サイズなので、彼女が若い頃に着用していたのだろう。
何十年もの間トランクの中にしまい込まれていたのでかび臭かった。洗濯機で洗い、ハンガーにかけて干しておいたら、アイロンをかけなくてもシャンとした。化繊の良いところ。